フレーミング効果とは?わかりやすい解説とビジネスでの活用例を紹介
「フレーミング効果」という言葉をご存知でしょうか。1981年にプリンストン大学のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーにより発表された心理学用語です。
フレーミング効果は、上手に活用すると日常やビジネスの様々なシーンで役に立ちます。ここではその意味と、フレーミング効果の具体例について解説します。
フレーミング効果とは
「フレーミング」(framing)にはもともと「絵や写真を額に入れる、画面を切り取る」という意味があります。例えばスマホのカメラで海に沈む夕日を撮ったとします。編集機能で夕日に大きくズームインするのか、ビーチに佇むカップルに焦点を当てるのか、切り取り方次第で写真の印象は大きく変わります。
つまりフレーミング効果とは、「同じ情報でも伝え方次第で与える印象が変わる」という一種の認知バイアスです。フレーミング効果は、意思決定に大きく影響することがあります。
フレーミング効果が起こる理由
フレーミング効果が起こるのは、利益と損失のどちらを強調するかで、人間が損得を感じる基準点(参照点)が移動するためです。
ある実験で、ガン患者をふたつのグループに分け、それぞれに以下のように伝えたうえで、手術をするかどうか質問しました。
1.術後1ヶ月の生存率は90%(利益を強調)
2.術後1ヶ月の死亡率は10%(損失を強調)
すると、1のように伝えられた患者の84%が手術を選択したのに対し、2のように伝えられた患者で手術を選択した人は50%に留まりました。価値の参照点を移動させることで、選択に大きな違いが出たのです。
アジアの疾病問題
フレーミング効果が人の選択に与える影響についての興味深い実験をもうひとつご紹介します。ここでは、学生グループに選択肢の異なる同じ問題に回答してもらいました。
問:600人の死亡が予想されている特殊なアジアの病気について2つの治療法が提案されています。あなたはどちらを選びますか?
1. 治療法Aを行うことで、200人の命を確実に救うことができる
2. 治療法Bを行うと、33%の確率で600人全員が助かり、66%の確率で誰も助からない
次に、以下のような選択肢を使って同じ質問をしました。
3. 治療法Cを行うことで確実に400人が死亡する
4. 治療法Dを行うと33%の確率で誰も死亡しないが、66%の確率で600人全員が死亡する
選択肢1と3、2と4は、言い方が違うだけで実は同じ内容です。しかし結果は、1回目の質問で1の選択肢を選んだ人が72%、2回目の質問で4の選択肢を選んだ人が78%というものでした。言い方を変えただけで、大多数の人が真逆の選択をしたのです。
これは、1回目の質問では利益を確定させる表現に票が流れ、2回目の質問では損失の確定を避ける表現に票が流れたためです。
マーケティングにおけるフレーミング効果の活用例
マーケティングの際にフレーミング効果を使うと、使わない場合よりも売上に良い影響を与える可能性があります。認知バイアスを利用したセールスコピーが消費者の選択を左右するためです。
ここでは表現が消費者心理にもたらす影響について、具体的に考察していきます。
活用例➀「1点無料」と「2点で半額」
いわゆる「バンドル売り」という手法です。上記どちらの場合でも、支払い金額は変わりません。ただし「半額」と聞くとお金を使うイメージが浮かぶのに対し、「無料」=お金を使わないという印象があるため、お得感が強調されます。
活用例➁「60日間無料」と「2カ月無料」
サブスク申し込みの際によく見かけるコピーですが、どちらも無料期間の長さは変わりません。しかし「60日」と「2ヶ月」という数字を目にすると、60日の方が長いように感じられるのではないでしょうか。
活用例➂「栄養成分1000㎎」と「栄養成分1g」
栄養ドリンクなどでよく見かける成分表示ですが、これも例➁と同様、実際の量に優劣はありません。しかし数字が大きい方に惹かれる消費者の認知バイアスを誘発したいがために、1000mgと表示する企業が多いのです。
活用例④「満足度95%」と「不満足度5%」
この2つのデータに違いはありません。違うのは、ポジティブとネガティブ、どちらの面に焦点を当てているかだけです。商品のメリットを強調したい場合は、ポジティブな表現を使った方が消費者に選ばれやすい傾向があります。参照点の移動が選択に与える影響の典型例です。
活用例➄「松竹梅」と「松梅」
「松竹梅」は寿司屋などでよく見かける選択肢です。この場合、寿司屋が一番売りたい商品は実は「竹」なのです。3種類の価格があれば人は中間を選びやすいというこの理論は、「ゴルディロック効果」と呼ばれます。
フレーミング効果を活用する際のポイント
フレーミング効果を生み出すためには、いくつかの方法があります。ポイントを押さえることで、フレーミング効果がより強力なものになります。以下はマーケティングの際に意識するべき2つの主なポイントです。
事実を言い換えてみる
月々定額で動画コンテンツが見放題になる会員制サイトがあるとします。次のどちらのコピーが加入へのハードルが低いでしょうか。
1. 月額3000円で見放題
2. 1日たった100円、缶コーヒー以下で楽しめる
両方とも、月々3000円払うという事実に変わりはありません。しかし2番目の選択肢の方が、見る人に「それくらいなら払える」という印象を与えやすくなります。
ポジティブ・ネガティブを使い分ける
商品のメリットやセールスポイントを伝えたい場合は、ポジティブな情報を強調する「ポジティブ・フレーミング」が効果的というのは、前項の「満足度95%」と「不満足度5%」で述べた通りです。
一方、ネガティブな情報を強調する「ネガティブ・フレーミング」の方が効果的なこともあります。それは顧客が何かに悩んでおり、現状に満足していない場合です。ダイエット本のコピーを例に挙げてみましょう。
「痩せると健康になります」と謳うより、「太っていると将来的に病気になる確率が高くなります」という言い回しの方が、これ以上の損失を回避したいという潜在意識に強く訴えかけるのです。
フレーミング効果に惑わされないための注意点
フレーミング効果は企業にとっては魅力的なマーケティング手法ですが、消費者にとっては最良の判断を妨げる厄介なトリックとなることがあります。
フレーミング効果に踊らされて後悔しないために、意思決定の際には次の点に気を付けましょう。
表現をシンプルに言い換える
前項で挙げた「「1点無料」と「2点で半額」という表現を見てみましょう。
1. 100円のお菓子を買うと、無料でもうひとつもらえる=100円支払う
2. 100円のお菓子を2つ買うと、半額になる=100円支払う
どちらも100円支払うことに変わりはありません。「無料」「半額」という条件をシンプルに言い換えることで、セールスコピーの本質が見えてきます。
事実のみを冷静に分析して判断する
次の似たような2つの特典のうち、どちらの方がお得でしょうか。
1. 1万円分の買い物をすると10%割引!
2. 1万円分の買い物をすると10%ポイント進呈!
どちらも1万円のうちの10%で1000円お得なのだから一緒では、と思ったかもしれませんが、実は少し違います。10%割引はその場で1000円引きになるのに対して、ポイントは次回買い物をした際に使えます。つまり1では9000円で購入できた商品が、2では1万円のままです。2の場合は同じ店で再度買い物しないと得をしない仕組みです。
フレーミング効果に惑わされないためには、お得そうなセールスコピーをすぐに鵜呑みにするのではなく、事実関係を冷静に分析することが大切です。
まとめ
フレーミングは、商品を売る立場になれば便利で、一方消費者の立場からすると少し注意が必要です。フレーミング効果についての知識を身につけて、日常生活やビジネスに活かしてもらえると幸いです。
(参考文献)
McNeil, B. J., Pauker, S. G., Sox Jr, H. C., & Tversky, A. (1982). 23On the Elicitation of Preferences for Alternative Therapies. Preference, Belief, and Similarity, 583.
フレーミング効果の理論的説明 リスク化での意思決定の状況依存的焦点モデル,竹村和久,理学評論,心理学評論 37(2),270-193,1994