【インタビュー】平坂読さん(小説家・ライトノベル作家)「自分が楽しめるものを書きたい」(「変人のサラダボウル」アニメ化決定記念)|ZYAO22特別インタビュー
岐阜県ゆかりの著名人へのインタビュー特集「ZYAO22特別インタビュー」。
今回は「僕は友達が少ない」「妹さえいればいい。」「変人のサラダボウル」などの人気作を世に生み出す小説家、平坂読(ひらさか よみ)さん(岐阜県瑞穂市出身)にお話を伺いました。
これまでの執筆活動の原点から、アニメ化決定で話題のライトノベル作品「変人のサラダボウル」の魅力、故郷岐阜への思いなどを語っていただきました。
いちばん大事なのは、自分が楽しめる作品であること。
編集部:まず、作家になろうと思ったきっかけは何だったのですか。
平坂読:もともと小説は幼い頃から読んでいたのですが、書き始めたのは高3の冬くらい。受験勉強がイヤになって現実逃避的に書き始めて、せっかく書いたのだから賞に応募したところ、かすりもしなかったので、ちょっとムキになって「作家になりたい!」と思いました。そのときに書いたのは応募規定の通り、原稿用紙200~300枚くらいのファンタジー作品です。
編集部:いきなり数百枚の作品をお書きになるなんてスゴいですね。当時からライトノベルがお好きだったのですか。
平坂読:いや、何でも読んでいました。家に両親が買ってきた本がいっぱいあったので。でも、自分から積極的に本屋に買いに行ったのはラノベですね。最初に読んだのは小学生のときだったと思います。表紙にマンガみたいなイラストがあって親しみやすかった。中学・高校のころは、ラノベにどっぷり浸かっていて、特に『ブギーポップシリーズ』はブッ刺さりました。登場人物は高校生がメインで、現代の群像劇みたいな感じで面白かったです。
編集部:2004年に『ホーンテッド!』で第0回MF文庫Jライトノベル新人賞を受賞され、同作品でデビューされましたが、デビューまでの経緯を教えてください。
平坂読:僕が大学時代にMF文庫Jという新しいレーベルができて、そこが随時、作品を募集していたのですごく気軽に投稿できたのですね。さらに、投稿した作品に対して必ず講評がもらえたので、ちょこちょこ作品を書いては送っていました。『ホーンテッド!』はその一つ。実は、その頃はまだ新人賞を正式に立ち上げる前で、プレ賞みたいな第0回MF文庫Jライトノベル新人賞の受賞作として出版することになったんです。それが21歳のときですね。もう、すごく嬉しかったですよ。「ようやく作家になれる!」って。大学の卒業も迫っていた時期だったので、「これで就活しなくて済むな」とも(笑)。
編集部:作品づくりをするときに、どんなことを意識されているのですか。
平坂読:いちばん根っこにあるのは、「自分が楽しめるものを書きたい」ということですね。僕の場合、ある程度、現実と地続きなものの方が楽しめる。舞台も自分になじみのある場所の方が書きやすかったので、2009年に刊行した『僕は友達が少ない』という作品でもほぼ岐阜が舞台だったんですよ。地名とかは架空のものにしていたんですけど。前作の『妹さえいればいい。』のときは遊び的に、岐阜県の市町村名をキャラクターの名前にしていますし、現在執筆中の『変人のサラダボウル』は、現実にある地名や名所をそのまま使っています。
編集部:発想はどんなところから生まれるのですか。
平坂読:ふと思いついたことをそのまま書いている感じです。ネタ帳といったものもないですね。作品によってテーマやキャラを決めて進めることもありますし、完結が見えないまま書くこともあります。『妹さえ』だと、〝小説家の話〟というテーマありきで書いているんですけど、『変サラ』は、このキャラをどう動かしていくか、キャラの関係性の変化を重要視しています。発想自体は、読んだ作品からも影響を受けることはあります。最近はライトノベルよりマンガを読むことの方が多いのですが、電子書籍を使うようになってから読書量は増えました。躊躇なく本がいくらでも買えるようになりましたので、ひと月100冊くらいは読みます。他にも、旅行はけっこう好きで、最近はあまり行けていないんですけど、ちょっと前までは月2回とか。新幹線の移動が好きで、日本のあちこちに行っていました。エビが大好物なので、美味しいエビを訪ねたり・・・。
作品の中には岐阜のローカルネタがいっぱい。
編集部:現在執筆されている『変人のサラダボウル』は、どのように誕生したのですか。
平坂読:前作の『妹さえ』が終盤に近づくころに、僕が5つくらい企画書をつくって提出しました。その中から、最初は〝予備校もの〟でいこうとしていたんですけど、コロナ禍で、自分が取材に行った頃とだいぶシステムなどが変わっていて、やりかった話が現在の予備校ではできないと思ったので諦めて、全く新しいのを考えました。今回は、ありがたいことに、前作と同じ売れっ子イラストレーターのカントクさんが「また一緒にやりたい」と言ってくださったんです。それで、カントクさんと編集者さんと3人でリモートミーティングをして、カントクさんのデザイン画を見ながらその場で意見交換し、その場で直して作り上げていくという感じでしたね。
編集部:『変人のサラダボウル』は第5巻まで刊行されていますが、あらためて、どんな物語なのか教えてください。
平坂読:岐阜市で探偵をやっている主人公のもとに、異世界から魔術をあやつるお姫様がやってきて、一緒に生活するうちに絆を深めていきます。その流れと、もうひとり異世界からやってきた女騎士が、これまた波瀾万丈な人生を送っていくという、その2つの軸で基本的には展開していきます。そして、岐阜に住む弁護士やホームレスなど、いろんな人たちが彼らに影響を受けて、自分なりの人生を歩んでいくという群像劇です。
編集部:タイトルも面白いですが、どのようにつけられたのですか。
平坂読:岐阜を舞台にすると決めた時に、岐阜県について色々調べました。そうしたら、意外なことに国際結婚率が非常に高かったり、そういったところが〝人種のサラダボウル〟という概念と重なる部分があるなと思って、ピンときたという感じです。主要キャラの名前もサラ・ダ・オディンというんですが、サラは、ポルトガル語で〝姫〟という意味で、しっくりくる名前だったので決めました。
編集部:見どころというか、読みどころはどんなところですか。
平坂読:先の見えない展開ですね。ほんとにいろんなキャラクターが関わり合って、予測できない化学反応を起こしていくという感じで。エピソード的にも完全にギャグに振っていたり、社会問題を扱っていたり、ちょっと泣かせる系のエピソードがあったり・・・、いろいろな楽しみ方ができるので、その混沌とした感じを楽しんでいただければと思います。
編集部:岐阜が舞台ですから、岐阜県人にとっては背景も見どころですね。
平坂読:はい、ローカルネタがいっぱいあるので、岐阜県の方には特に楽しんでいただけると思います。表紙の背景写真も1巻をつくるときに、カントクさんと編集者さんと3人で岐阜に行って自分たちで撮ってきたものなんですよ。第4巻まではトリックアートのような、ちょっと面白い表紙にしてます。手乗りの信長像だったり、岐阜公園にある板垣退助像とハイタッチしたり。第3巻の長いすべり台は長良公園にある遊具で、その写真を加工して髪の上で滑っているように見せています。岐阜の情景写真で遊んでいるので、岐阜の方にはそこも見てほしいし、どこの写真か当ててほしい。テレビアニメ化も決定して、その公式サイトにもたくさん掲載されていますが、それも僕らが撮影した写真です。もう、あとは、いい作品になることを祈るだけですね。
編集部:岐阜生まれの平坂先生、子どもの頃と今とでは、また岐阜の印象も変わったのではないかと思いますがいかがですか。
平坂読:僕は高校までは瑞穂市に住んでいて、大学進学と同時に他県に移りました。大学在学中にプロデビューしたんですけど、大学卒業してから数年間は岐阜に戻ってきて、実家から程近いマンションに住んでいました。子どものころは、ほんとに何にもない街だなという感じだったんですけど、大人になって自分で家を借りて実際に住んでみると、けっこう住みやすかったりするんですよね。この作品を書くときにも、市内をあちこち巡って、岐阜城にものぼって、岐阜の街を調べ直したりしたんですけど、自分の知らない名物や名所が意外とありました。例えば、岐阜大仏とか。日本三大仏の一つに数えられることもそうですが、岐阜公園には何度か行っているのに、その近くあることも全然知らなくて。駅前もすごく開発されていて、昔は服飾店ばっかりだった通りにも、岐阜横丁とか、新しい飲み屋がいっぱいできていたり。学生時代にくらべたら、どんどん綺麗になっていて里帰りするたびに驚いていましたね。
なるべく長く作家を続けていくことが目標。
編集部:作家さんがどんな一日を過ごしているのか、みなさんとても興味のあるところだと思いますが、教えていただけますか。
平坂読:僕は基本的に3食しっかり食べて、夜早めに寝て、朝早めに起きる。6時か7時には目が覚めます。仕事は、やるときもあれば、やらないときもある。書く時間も決めません。料理が好きなので、最近は自炊することが多いです。
編集部:それは健康的な生活ですね。作家人生20年近くになるかと思いますが、これまでスランプに陥るようなことはなかったのですか。
平坂読:「全然進まないな」と思うときはちょいちょいありますけど、完全にスランプっていうほど書けないことはないかもしれませんね。全然進まないときは、「降ってくるのを待つ」という感じで、無理には書かない。基本的に小説を書くという作業はあんまり楽しくはないんですよ。話を考えたり、キャラクターの会話を想像したりとかするのは楽しいんですけど、実際の執筆作業となるとすごく地味だし、時間かかるので、「書きたい」と思うことはあんまりないですよね。
編集部:今後の目標について、お聞かせください。
平坂読:当面の目標としては、『変サラ』をいい形で完結させることです。それから、なるべく長く作家を続けていきたいので、そのためにどうしたらいいのかを、ちゃんと考えないといけないなと思っています。実は、ライトノベル作家は、なかなか長く続けるのが難しい職業なんです。毎年のようにどのレーベルにもたくさん新人が入ってきているのに刊行点数が減る方が多い。当然、去って行く作家さんもいっぱいいるわけです。
編集部:他のジャンルで書きたいという想いはあるのですか。
平坂読:それはありますね。最近は、ドラマに興味関心が変わってきています。僕は、ふだん見ているものや日常を作品に反映することが多いので、自分が楽しめるものを書くとなると、やっぱり主人公の年齢もどんどん上がっていくのですね。だから、いずれ自然とライトノベルから、もう少しドラマのような小説を書いていくんじゃないかな、と思います。でも、あまり目標を持ってそこに行くというタイプではなく、アドリブでやってるうちにそこに行くというタイプなので、今はあんまり考えていないですけど。
編集部:では最後に、働くZ世代へのメッセージをお願いします。
平坂読:今は、情報量が多すぎて頭でっかちになっちゃったり、その中で決断していかなくてはいけない場面も多い。しかも、日本が不景気ですからね。僕の学生時代よりも、すごく大変な時代だと思うので、強く生きてほしい。作家以外の職業はしたことがないのでわかんないですけど、好きを仕事にしていれば、あるいは仕事の中に好きを見つけることができればいいと思う。そして、あんまり無理をしないこと。ちゃんと休めるときは休む。それが長く続けるコツかもしれないです。