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投稿者:

ZYAO22編集部

高スイッチング周波数動作の実現に向けたパワーデバイスの高周波特性評価を手軽に

パワーデバイスのSパラメータを汎用的に測定できるシステムを開発

ポイント
・ 表面実装パワーデバイスのもつさまざまな形状の平面電極をSパラメータ測定装置の同軸テストポートに接続できるプローブを開発
・ 従来法ではパワーデバイスの電極形状ごとに作製していたテストフィクスチャとキャリブレーション用デバイスが不要に
・ パワーエレクトロニクスシステムの小型化・軽量化への貢献に期待

概 要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)物理計測標準研究部門 岸川 諒子 主任研究員、研究戦略企画部 堀部 雅弘 次長は、株式会社テクノプローブ(以下「テクノプローブ」という)、Keysight Technologies, Inc.(日本法人:キーサイト・テクノロジー株式会社、以下「キーサイト」という)と共同で、さまざまな電極形状をもつ表面実装パワーデバイスの高周波特性を汎用的に評価するシステムを開発しました。

パワーデバイスは、大電流を高速にオン/オフ(スイッチング)することで電力の変換・制御を効率的に行う半導体デバイスで、電気自動車や鉄道、太陽光発電、家電製品など幅広い分野で活用されています。高いスイッチング周波数で動作させることでパワーデバイスやインダクター、コンデンサーなどの小型化が可能になり、最終的にはシステムの小型化・軽量化につながると期待されています。高いスイッチング周波数で動作する回路を設計するには、高周波信号の反射や伝送特性を表すSパラメータの情報が有効です。

今回、産総研とテクノプローブ、キーサイトは同軸を表面実装パワーデバイスの平面電極に形状変換するプローブとプローブを制御するためのプローブステーションを開発しました。開発したプローブは複数種類の電極形状に対応しており、50 kHzから1 GHzまでのSパラメータの測定が可能です。Sパラメータ測定が簡便かつ安価に実施できるようになることで、高いスイッチング周波数で動作する小型軽量パワーエレクトロニクスシステムの開発への貢献が期待できます。

この技術の詳細は2025年3月16日~20日に米国で開催されるIEEE Applied Power Electronics Conference and Expositionで発表され、発表に合わせて開発したプローブとプローブステーションが日本国内向けにはテクノプローブ、海外向けにはT Plus Co. Ltd.より販売開始されます。

下線部は【用語解説】参照

開発の社会的背景

パワーデバイスはスイッチング動作により電力の形態(直流や交流)を効率的に変化させ、電力の供給先である負荷にとって最適な状態で電力を供給するために用いられる半導体デバイスであり、脱炭素社会の実現に向けた重要な技術として、電気自動車や鉄道などのモビリティ、再生可能エネルギー、家電製品など幅広い分野で活用されています。近年、パワーデバイスのスイッチング周波数を高くすることで、小型で軽いパワーエレクトロニクスシステムの開発が進められています。

従来、高電圧・大電流を取り扱うパワーエレクトロニクスは低周波物理を基礎として構築されてきましたが、高周波数でスイッチングするシステムの開発には、高周波物理も導入しなければなりません。これは、高周波スイッチングの研究開発を進める上で技術的なハードルの一つになっています。例えば、高周波回路において効率よく電力を伝えるために、高周波特性を表す物理量であるSパラメータ測定は欠かせません。しかし、Sパラメータ測定では、表面実装パワーデバイスの平面電極を測定装置に接続するために、形状変換を行うためのテストフィクスチャを用意しなければなりません。さらに、測定結果からテストフィクスチャの影響を排除するためのキャリブレーション用デバイスを被測定デバイスの形状ごとに作製する必要があります。このようなテストフィクスチャとキャリブレーション用デバイスの作製には高周波物理に基づく設計やシミュレーションなどが必要であり、多大な労力とコストがかかります。

研究の経緯

産総研では、キロヘルツからテラヘルツまでの高周波数帯域におけるSパラメータ計測技術、その計測データを用いた回路評価技術の研究開発を行っています。

今回、産総研とテクノプローブ、キーサイトはテストフィクスチャを用いずに、さまざまな形状の表面実装パワーデバイスのSパラメータを簡便かつ安価に測定できるシステムを構築するため、測定装置であるベクトルネットワークアナライザの同軸テストポートを平面電極に形状変換するプローブと、プローブを制御するためのプローブステーションの開発に取り組みました。プローブの着想は産総研とテクノプローブ、プローブの開発はテクノプローブ、キャリブレーション方法の研究は産総研、テストフィクスチャを用いた従来の測定方法との比較検討はキーサイトが行いました。

研究の内容

今回、同軸ポートを被測定パワーデバイスの平面電極へ形状変換するプローブを開発しました。市販の装置と組み合わせることで、表面実装パワーデバイスの50 kHzから1 GHzまでのSパラメータを簡便かつ安価に測定できるようになりました(図1)。

研究開発において特に困難な点は、開発したプローブシステムと測定周波数領域に対して最適なキャリブレーション方法を選定することでした。さまざまなキャリブレーションを実際に行い、その結果を検討することで、Open-Short-Load-ThruとPort extensionの組み合わせが適していることを突き止めました。

このプローブシステムには、二つの利点があります。一つ目の利点は、テストフィクスチャとキャリブレーション用デバイスを測定者が作製する必要がないことです。開発したプローブでは、プローブのチップ間長さと被測定パワーデバイスの電極間長さが合っていれば、測定可能です。両者の長さの比較を行うことで、簡単に測定ができるようになります。二つ目の利点は、1種類のプローブで、複数種類のパワーデバイスが測定できることです。図2に示すように、開発したプローブはさまざまな市販パワーデバイスに適用可能で、安価にパワーデバイスを測定できるようになります。

また、従来のテストフィクスチャによる測定と開発したプローブによる測定を比較した結果、一致していることを確認しました(図3)。今回開発したプローブを用いた測定は、これまでより簡便かつ安価でありながら、従来と同等の測定結果が得られることを示しています。

今後の予定

さらに多様なパワーデバイスを測定できるように、プローブとプローブステーションの改良を進めます。今回はプローブのグラウンドチップとシグナルチップの距離が3.7 mmの場合ですが、チップ間長さを変えてプローブを作製することも可能です。これにより、さらに多くのパワーデバイスに対してプローブを用いたSパラメータ測定が可能になります。その上で、高周波動作が期待されるGaNパワーデバイスなどの研究開発への貢献を目指します。

用語解説

表面実装パワーデバイス
プリント基板にはんだで直接実装することを想定したパワーデバイス。

スイッチング周波数
1秒間にスイッチをオンオフさせる回数。

Sパラメータ
高い周波数の電磁波を入力した時の応答(反射や透過)を表す物理量。あるポートから入射した電磁波と同じポートから出射した波の比を反射特性、あるポートから入射した電磁波と他のポートから出射した波の比を透過特性という。ベクトルネットワークアナライザなどを用いて測定される。

同軸
高い周波数の電磁波を伝播させることができる伝送線路の一種。円筒形の外部導体と内部導体で構成される。

パワーエレクトロニクス
スイッチのオンとオフを繰り返すことで電力の形態を変換し、負荷に最適な状態で伝送する技術。直流から交流の電気への変換、交流から直流の電気への変換、直流から直流の電気への変換、交流から交流の電気への変換がある。例えば、コンセントから供給される交流の電気を、スマートフォンのバッテリーを充電するための直流の電気に変換する場面で活用されている。エネルギーの効率的利用に貢献する技術として、大きく注目されている。

テストフィクスチャ
被測定物と測定器を接続するための回路。ここでは、表面実装パワーデバイスの平面電極と同軸コネクタの形状変換回路を指す。

キャリブレーション
測定装置が出力する生データから被測定物以外の影響を除去し、被測定物の特性のみを得るための作業。ベクトルネットワークアナライザの場合、ケーブルなどの影響を除去する。1ポートベクトルネットワークアナライザではOpen-Short-Load(OSL)やPort extension、2ポートベクトルネットワークアナライザではOpen-Short-Load-Thru(OSLT)やThru-Reflect-Line(TRL)などの方法が知られている。

ベクトルネットワークアナライザ
高い周波数領域におけるSパラメータを測定するために広く使用されている測定装置。

 
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250319/pr20250319.html