7.5 TeVまでの宇宙線電子のエネルギースペクトル測定に成功:地球近傍の宇宙線加速源の可能性を示唆
国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟搭載の高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)による測定
2023年12月5日
早稲田大学
発表のポイント
地球に飛来する宇宙線は、その加速領域の特定が難しいため加速・伝播機構の理解があまり進まない状況が続いていました。また高エネルギーの電子は、荷電粒子から加速源を同定できるユニークな可能性が理論的に指摘されていましたが、これまで観測例はほとんどありませんでした。
本研究グループは今回、高エネルギーの電子観測を主目的とした検出器であるCALETを用いて、電子を高精度に選別すると同時に、国際宇宙ステーションにおける長期間観測により高統計のデータを蓄積することでこの問題を克服しました。
その結果、高エネルギー領域で地球近傍の電子加速源候補である超新星残骸の寄与を示唆するエネルギースペクトルが得られました。今後のさらなる観測により、宇宙線加速源が荷電粒子によって初めて直接的に同定できる可能性が高まっています。
CALETの概念図(左図)と主検出器のカロリメータ(右図) (出典 JAXA/早稲田大学)
早稲田大学理工学術院総合研究所主任研究員(研究院准教授) ・赤池陽水(あかいけようすい)、同大学名誉教授・CALET代表研究者 鳥居祥二(とりいしょうじ)、同大学理工学術院教授・モッツ・ホルガーと、神奈川大学、立命館大学、東京大学宇宙線研究所、弘前大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による共同研究グループ(以下、本研究グループ)は、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載したCALET(ISS・「きぼう」日本実験棟搭載の高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)を用いて銀河宇宙線中の電子のエネルギースペクトルを世界最高の7.5テラ電子ボルト(TeV)まで高精度に観測し、宇宙線の起源と伝播に迫る成果を発表しました。
本研究成果は、アメリカ物理学会発行の『Physical Review Letters』に、“Direct Measurement of the Spectral Structure of Cosmic-Ray Electrons + Positrons in the TeV region with CALET on the International Space Station”として、2023年11月9日(木)(現地時間)にオンラインで掲載されました。
用語解説
※1 宇宙線
宇宙空間は、何もないように見えますが、実はとてもたくさんの粒子が飛んでいます。それらは原子よりもさらに小さい陽子や電子などの粒子で、宇宙空間で手をかざしたら1秒間に100個以上が手に当たるほどたくさん飛んでいます。そのような粒子を宇宙線と言います。宇宙線は約100年前に発見されて以来、常に物理学の最先端のテーマでした。宇宙線の研究から、陽電子や中間子の発見など、人類の知識を大きく広げる成果が上がっています。宇宙線は太陽や天の川銀河など宇宙のさまざまな場所から飛んできます。特に高いエネルギーを持ったものは、太陽系の外から遥々やってきます。
※2 GeV, TeV
エネルギーの単位です。1ボルトの電位差を抵抗なしに通過した際に電子が得るエネルギーが1電子ボルト(eV)です。ここでは、その109倍のギガ電子ボルト(GeV)、1012倍のテラ電子ボルト(TeV)のエネルギー領域を扱っています。
※3 AMS-02
AMS-02 (Alpha Magnetic Spectrometer)は、2011年5月にISSに搭載された磁気分光器で、現在も宇宙線の観測を継続しています。磁石を利用し、検出器中の磁場中の曲がり具合から入射粒子の運動量を測定するCALETとは異なる測定原理の検出器です。約2 TeVまでの電子と陽電子の識別が可能で、より高エネルギー領域まで測定可能なCALETとは相補的な関係にあります。
論文情報
雑誌名:Physical Review Letters
論文名:Direct Measurement of the Spectral Structure of Cosmic-Ray Electrons + Positrons in the TeV region with CALET on the International Space Station
執筆者名(所属機関名):Yosui Akaike (Waseda University), Shoji Torii (Waseda University), Holger Motz (Waseda University), Nicholas Cannady (NASA/GSFC/CRESST/UMBC) et al. (CALET Collaboration)
掲載日(現地時間):2023年11年9日(木)
DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.131.191001