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投稿者:

ZYAO22編集部

眼圧を高感度に無線計測するスマートコンタクトレンズを開発

~緑内障評価に有効であることを実証~

2026年1月14日
早稲田大学
山口大学

眼圧を高感度に無線計測するスマートコンタクトレンズを開発

~緑内障評価に有効であることを実証~

 

発表のポイント

●ソフトなコンタクトレンズに歪センサアンテナを搭載することに成功しました。

●パリティ・時間(PT)対称性共振結合回路と無線式歪センサを統合した新回路によって、従来方式の約183倍の感度(36.333Ω/mmHg)を達成しました。

●市販の眼圧計と高い線形相関を確認するとともに(豚眼:0.93、ウサギ:0.97)、高い透明性(可視光透過80%以上)と生体安全性を実証しました。

●本成果は、健常者(10~21 mmHg)が装着することで、緑内障患者の早期発見に向けたスマートレンズとしての開発につながります。

 

図1:“眼圧を無線で測る”スマートコンタクトレンズ

 

 早稲田大学大学院情報生産システム研究科三宅 丈雄(みやけ たけお)教授アズハリ・サマン次席研究員らの研究グループと山口大学大学院医学系研究科眼科学講座の木村 和博(きむら かずひろ)教授、芦森 温茂(あしもり あつしげ)助教らの研究グループは、導電性高分子(PEDOT:PSS)と接着性高分子(PVA)からなる多層構造抵抗センサと、PT対称性の原理を利用した無線検出器を組み合わせることで、眼圧※1変化に応じた抵抗変化を高いQ値※2で読み取ることに成功しました。

 その成果は、6~36 mmHgの眼圧範囲において36.333 Ω/mmHgの感度(従来方式0.198 Ω/mmHgの約183倍)を達成しました。さらに、豚眼を用いたin vitro※3実験およびウサギを用いたin vivo※4実験により、商用眼圧計との間でR²※5=0.93~0.97の高い線形相関が得られ、本センサレンズが長期かつ非侵襲で眼圧をモニタリングできるプラットフォームとして有望であることを示しました。また、透明性(可視光透過80%以上)および安全性(家兎試験およびヒト角膜上皮細胞の生存率90%以上)を確認しました。

 本成果は、国内失明原因の第1位である緑内障の早期診断・治療効果モニタリング・在宅管理に貢献する、新しいスマートコンタクトレンズ技術として期待されます。

 以上は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、科研費基盤A、キヤノン財団による助成の成果であり、2026年1月13日(火)に国際学術誌「NPJ Flexible Electronics」に公開されました。

 

1研究の背景

 コンタクトレンズは、屈折異常を矯正して視力を補強するウェアラブルな高度医療機器としての利用が一般的ですが、近年、これらのレンズと電子デバイスを組み合わせることで「視る」から「診る」を実現可能なスマートコンタクトレンズの開発が盛んです。とりわけ、国内失明原因の第1位である緑内障を検出する医療機器の開発は、疾患予防や遠隔在宅診療を実現する点で「健康寿命の延伸」や「医療費削減」への期待が高まっています。さらに、緑内障の患者数*1は、400万人以上(40歳以上の5%、70歳以上の10%)に達しており、その開発は急務と言えます。

図2:コンタクトレンズの機能拡張とその市場規模

 眼球内圧力(以下、眼圧と呼ぶ)が上昇することで視神経を傷害し、失明を引き起こす緑内障は、日中よりも夜間に進行することが知られており、病気の進行具合を把握する上で24時間眼圧を計測することが求められています。病院では、ゴールドマン眼圧計などの大型装置を利用して測定できますが、夜間の測定には不向きです。そこで、コンタクトレンズに電子素子を搭載することで24時間計測を実現させるスマートコンタクトレンズの開発が進んでいます。

 開発が進む眼圧計測レンズは、レンズ素材が硬くドライなハードコンタクトレンズを使用しているため、装用感が悪く、また、高価であるという欠点がありました。一方、ウェットなソフトコンタクトレンズ上に従来型アンテナ素子を搭載すると、レンズの乾燥により電子部品が基板から剥がれてしまうなどの課題がありました。そこで、本研究グループは、電気メッキを利用したアンテナの微細加工技術によって、無線アンテナの伸縮性を実現し、さらに、アンテナ自身が歪を感知できる最適な構造(形状や厚みなど)を明らかにしました。伸縮性を有する歪センサアンテナは、市販のソフトコンタクトレンズ上に搭載することができます。レンズが乾燥してもセンサ素子が基板から剥がれることはありません。また、アンテナとセンサが一体化したことで、センサの価格を抑えることができました。自宅で計測できるセルフケア商品としての普及が期待されます。

図3:ソフトなコンタクトレンズを用いた眼圧計測を実現

 

2)研究の成果

研究グループでは、これまでレンズとメガネ間における無線通信技術(PT対称性共振結合回路※6)の開発に取り組み、涙中糖度を計測する超高感度なバイオセンシングレンズの開発に成功してきました。この実現のためアンテナの形状や材料選定(Mg, Zn, Au, Cu, 合金, カーボンナノチューブ, MXene※7など)に加え、レンズに搭載可能な共振器および検出器などの回路設計、データ解析のためのソフトウェア開発に取り組んできました。

 本研究では、コンタクトレンズ側の受動共振回路に対し、読み出し側(受信機)の回路にPT対称性の概念を導入した新しい原理の共振結合回路を用いました。まず従来型の検出器では、70 MHz付近でモードスプリット※8に起因する2つのピークが観測され、帯域幅は約3.5 MHzと広いことに加え、6~36 mmHgの眼圧変化に対して70 MHzにおける抵抗変化はわずか5.94 Ωにとどまっていました。これに対して、負性抵抗素子を組み込んだPT共振結合回路では、損失を能動的に補償することにより、共振ピークの帯域幅は約0.206 MHz、Q値は339.15へと大きく向上し、従来アンテナのQ=15.71と比べて格段に高い共振特性が得られました。豚眼に本スマートコンタクトレンズを装着し、PT検出器で読み出した場合、6~36 mmHgの眼圧変化に伴い検出される実数インピーダンスZ′は−4.5 kΩから−5.59 kΩへと大きく変化し、その絶対値の変化量は従来アンテナの数百倍に達しました。感度で比較すると、従来検出器での0.198 Ω/mmHgに対してPT検出器では36.333 Ω/mmHgを達成しており、約183倍の高感度化に成功しています。さらに、このシステムでは共振周波数がほぼ一定に保たれるため、単一周波数でZ値(リアルタイム成分にインピーダンス)のみを監視すればよく、周波数スキャンが不要である特徴を有しています。ここでは、商用眼圧計(トノメータ)で測定した眼圧値と本研究で開発したセンサレンズから得られた抵抗値の相関を調査したところ、決定係数R²=0.93という高い線形相関が得られ、本システムが豚眼において眼圧を定量的に再現できることが示されました。

 さらに、生体眼における連続測定の実現可能性を検証するため、ウサギを用いたin vivo実験を行いました。麻酔下のウサギの眼圧をトノメータで測定したのち、人工涙液を滴下してスマートコンタクトレンズを装用し、PT検出器を搭載させたゴーグルを装着して無線測定を開始しました。その後、前房内にヒアルロン酸ナトリウムを注入することで眼圧を意図的に上昇させ、注入前、注入直後、さらに2日後に再度測定を行い、各時点でトノメータ値とコンタクトレンズ由来の抵抗値の両方を取得しました。各測定は1回あたり10分間実施し、その間の抵抗値変化をベクトルネットワークアナライザで5秒ごとに記録しました。得られたデータをMATLABで解析した結果、ウサギにおけるトノメータ眼圧値とコンタクトレンズ抵抗値の間には決定係数R²=0.97という非常に高い線形相関が認められ、生体眼においても本システムが眼圧変動を精度良くトレースできることが明らかになりました。安全性評価としては、レンズ装着後の流血評価に加え、サーモグラフィを用いた温度分布を測定したところ、いずれの実験における有意な差は見られませんでした。また、ヒト角膜上皮細胞を用いた生体適合性試験においては、24時間および48時間後においても、90%以上の細胞生存率を示すことを確認しました。

3)研究の波及効果や社会的影響

 本研究で開発した高感度スマートコンタクトレンズは、眼圧を連続的かつ非侵襲でモニタリングできる世界でも数少ない技術であり、緑内障の早期発見と進行管理に大きな社会的重要性を有します。従来の眼圧計測では困難であった夜間や在宅での連続計測が可能となることで、病気の進行を左右する眼圧変動を正確に把握でき、患者のQOL向上および失明リスクの低減が期待されます。また、本技術はソフトコンタクトレンズを基盤とするため装用性が高く、セルフケア型医療デバイスとして幅広い年齢層に普及する可能性があります。

 さらに、PT対称性を用いた無線高感度計測という本研究の新しい原理は、眼科領域に留まらず、心血管・皮膚・呼吸といった他の生体計測デバイスにも応用でき、次世代ウェアラブル医療機器開発の基盤技術となることが見込まれます。高齢化が進む社会において、医療費削減や遠隔医療の推進にも寄与し、医療DXの実現に向けた重要な一歩となります。また、柔らかい電子デバイス、スマートレンズ産業、バイオセンシング用半導体など周辺産業への展開が期待され、医療・工学・材料分野に跨る新しい市場創出と技術革新の加速につながると考えられます。

 

4)今後の展望

今後は事業化に向け、本計測レンズを用いて医学部眼科の先生と共同で臨床試験に取り組みます。そのため、レンズデバイスの試作、レンズ製造、無線検出器を開発して頂ける企業との連携を進めていく予定です。

 

5)用語解説

*1:多治見スタディの結果を参照。

https://www.ryokunaisho.jp/general/ekigaku/tajimi.php

 

※1 眼圧(Intraocular Pressure: IOP):

眼球内部の圧力。正常範囲(おおよそ10~21 mmHg)から大きく外れると視神経障害のリスクが高まり、緑内障の発症・進行と関連する。

 

※2 共振結合系のQ値:

共振回路における共振のピークの鋭さを表す値「Q」(Quality factor)が大きいほど、共振回路の損失が少ない回路を実現できたと言える。

 

※3 in vitro:

生体から取り出した細胞や組織などを用いた人工的な環境で実験・測定することを意味する。

 

※4 in vivo:

生きた生体で実験・測定を行うことを意味する。

 

※5 線形相関R²:

データのばらつきを回帰直線がどれだけ説明できているかを示す指標で、値が1に近いほど、データの点がほとんど一直線上に並んでおり、強い相関があると判断できる。

 

※6 PT対称性共振結合回路(Gain-Loss結合回路):

増幅器による“ゲイン”と抵抗などによる“ロス”を対称的に配置して結合させることで、エネルギーの流れが釣り合う特殊な共振状態(PT対称状態)を実現し、高感度な周波数応答や異常な結合特性を得る回路のことである。

 

※7 MXene(マキシン, M=遷移金属、X=C, N):

二次元構造の遷移金属炭化物・窒化物・炭窒化物の総称。高い導電性や電磁波遮蔽性能を有するため、エネルギー貯蔵、センサ、電子デバイスなど多方面で期待されている。

 

※8 モードスプリット:

もともと1つの共振周波数をもつ縮退モードが、共振器間の結合や外乱によって複数の固有モードへ分離し、それぞれ異なる共振周波数を示す現象のことである。

 

6)論文情報

雑誌名:NPJ Flexible Electronics

論文名:Ultra-Sensitive Real-Time Monitoring of Intraocular Pressure with an Integrated Smart Contact Lens Using Parity-Time Symmetry Wireless Technology

執筆者名:Te Xiao, Hanzhe Zhang, Taiki Takamatsu, Saman Azhari, Atsushige Ashimori,

Kazuhiro Kimura, and Takeo Miyake *責任著者

掲載日時:2026年1月13日(火)

DOI:https://doi.org/10.1038/s41528-025-00507-3

掲載URL: https://www.nature.com/articles/s41528-025-00507-3

 

7)研究助成

・国立研究開発法人日本医療研究開発機構医療機器等研究成果展開事業(開発実践タイプ)、JP23hma322020

・科学研究費補助金基盤研究A

・キヤノン財団研究助成