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投稿者:

ZYAO22編集部

NICT、NEC、東北大学、トヨタ自動車東日本、東北の工場でSRF無線プラットフォームVer. 2の実証実験に成功

公衆網とローカル5Gのハイブリッドなネットワークを活用し、無線通信の安定化を実現

2024年11月7日
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
日本電気株式会社
国立大学法人東北大学
トヨタ自動車東日本株式会社

ポイント

■ 自動車工場での、SRF無線プラットフォームVer. 2を用いた無線通信の安定化実証実験に世界で初めて成功
■ 公衆網とローカル5Gのハイブリッドなネットワークを活用し、自動搬送車との通信をシームレスに切替え
■ 今後、SRF無線プラットフォームの実用化を目指し、技術開発及び標準仕様の策定と認証制度の整備を推進

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 徳田 英幸)、日本電気株式会社(NEC、取締役 代表執行役社長 兼 CEO: 森田 隆之)、国立大学法人東北大学(東北大学、総長: 冨永 悌二)及びトヨタ自動車東日本株式会社(トヨタ自動車東日本、取締役社長: 石川 洋之)は、公衆網とローカル5Gのハイブリッドなネットワークを活用して移動体との無線通信を安定化するSmart Resource Flow(SRF)無線プラットフォームの実験に世界で初めて成功しました。
 NICT、NEC及び東北大学は、製造分野における5G高度化技術の研究開発を推進しており、その中でSRF無線プラットフォーム技術仕様書Ver. 2に対応した無線通信システムを開発しました。本システムの有効性を稼働中の製造現場で確認するために、トヨタ自動車東日本の宮城大衡工場にて、公衆網(5G/LTE)とローカル5Gを切り替えて移動体との間の無線通信品質を評価する実験を実施しました。その結果、本システムにより、サービスエリアの広さ等の特性が異なる公衆網とローカル5Gによるハイブリッドなネットワークを活用し、通信が途切れることのない安定化が実現できることを確認しました。 

背景

 製造現場では、生産効率を向上するため無線通信を用いた製造向けアプリケーションの導入が年々進んでおり、今後も更に増加するものと予想されます。例としては、自動搬送車による部品搬送の自動化やトルクレンチ等の工具情報の収集・管理などがあります。導入が増加すると、無線通信は干渉や遮蔽の影響により通信品質が不安定になり、遅延やスループットが悪化することがあります。その結果、自動搬送車が安全のために停止したり、工具情報が取れず製造ラインが停止するなど、かえって生産効率が下がってしまいます。
 このような事態を避けるため、NICT及びNECは、2015年から、製造現場の無線化を推進するフレキシブル・ファクトリー・プロジェクト(Flexible Factory Project)の活動を実施しており、本活動を通して得られた知見をいかし、異種無線通信の協調制御により無線通信を安定して動作させるSRF無線プラットフォームの技術開発を推進してきました。また、2017年7月に、SRF無線プラットフォームに高い関心を持つ企業と共にフレキシブルファクトリパートナーアライアンス(FFPA)を設立し、技術仕様の標準化を推進してきました。そして、2023年1月に、SRF無線プラットフォームの技術仕様書Ver. 2を策定し、公開しました。
 SRF無線プラットフォーム技術仕様書Ver. 2においては、Ver. 1が対象としていた無線LANに加えて、キャリア5G、ローカル5G、LTEも用いたハイブリッドなネットワークの利用が可能になりました。これにより、広いエリアに無線通信を提供できる公衆網(キャリア5GやLTE)と、工場の建屋のように金属で囲われて外部からの電波が届きにくいところに局所的に無線通信を提供できるローカル5Gを組み合わせることで、無線通信品質をより安定にさせることが可能となりました。NICT及びNECは、このSRF無線プラットフォーム技術仕様書Ver. 2に対応した無線通信システムを開発しました。

図1 SRF無線プラットフォームを用いた実験システム

稼働中の製造現場における実証実験

 本無線通信システムの有効性を稼働中の製造現場で確認するために、トヨタ自動車東日本の宮城大衡工場にて、図1のような環境で、公衆網とローカル5Gの切替えによる移動体との間の無線通信品質を評価する実験を実施しました。実験では、図2のように製造現場で稼働している移動体(自動搬送車)にSRF Deviceを搭載し、約163 m離れた工場A、Bの間を往復させました。ローカル5Gの周波数帯は4.8GHz~4.9GHzの電波を使用しました。
 自動搬送車は、図1の青線のようにローカル5Gでデータを送信しながら、ローカル5Gの基地局が設置してある工場Aからスタートして工場Bに向かいます。工場Aから離れるにつれてローカル5Gの通信品質が悪化していきますが、SRF無線プラットフォームでは図1の青点線のように公衆網側にもバックアップ経路を用意しておき、SRF Deviceが無線の品質情報(受信信号強度など)を基にローカル5Gよりも公衆網の方が送信に適していると判断した場合に、図1の緑線のようにデータ送信経路を公衆網側に切り替えることで、通信品質を維持します。
 本実験では、このSRF無線プラットフォームにより、ローカル5Gと公衆網をシームレスに切り替えて安定して通信を継続することができるかを検証しました。

図2 SRF Deviceを搭載した移動体(自動搬送車)

 実験結果を図3に示します。図3(a)のようにSRF無線プラットフォームを使用していない場合、工場Bに入った直後辺りでローカル5Gの圏外になり通信が遮断し、アプリケーションの通信が途絶しました。その後、通信可能な経路をサーチして公衆網に切り替えて通信を再開しましたが、約9.75秒の間、通信が遮断しました。また、ローカル5Gの通信遮断の直前には往復遅延も大幅に悪化し、最大で約1.01秒になりました(拡大図は図3(c)左 参照)。
 これに対し、図3(b)のようにSRF無線プラットフォームを使用した場合、工場Bに入る少し前からデータ送信経路を公衆網に切り替えることで、経路切替時の通信遮断時間を約0.14秒に短縮し、アプリケーションの通信が途絶することなく安定して通信を継続できることを確認しました(拡大図は図3(c)右 参照)。また、自動搬送車が工場Bを出て工場Aに近付き、ローカル5Gの受信信号強度が良くなってくると、SRF Deviceは再びローカル5Gに切り替えて通信を継続できました。
 この結果により、サービスエリアの広さ等の特性が異なる公衆網とローカル5Gによるハイブリッドなネットワークを活用し、通信が途切れることのない安定化を実現できるSRF無線プラットフォームの効果を実証することに世界で初めて成功しました。

(a) SRF無線プラットフォームを使用していない場合

(b) SRF無線プラットフォームを使用した場合

(c) 切替付近の拡大図(左:SRFを使用していない場合、右:SRFを使用した場合)
青線:ローカル5G経由の往復遅延、緑線:公衆網経由の往復遅延
赤線:ローカル5G経由の受信信号強度、オレンジ線:公衆網経由の受信信号強度
図3 実験結果

今後の展望

 今後、NICT、NEC、東北大学及びトヨタ自動車東日本は、本実証実験の結果をいかしSRF無線プラットフォームを工場における安定した無線通信を利活用できるプラットフォームとして実用化を目指し、技術開発及び標準仕様の策定と認証制度の整備を推進していきます。

各機関の役割分担

・情報通信研究機構:実験計画立案、実験実施、データ分析
NEC:ローカル5Gの実験試験局の免許取得※、実験システム構築、実験実施
・東北大学:実験における無線通信関連の技術支援
・トヨタ自動車東日本:実験環境整備及び実験実施支援

※ローカル5G用実験試験局(基地局相当2局、陸上移動局相当9局)の免許を東北総合通信局から受けました。

なお、本研究開発の一部は、総務省SCOPE(国際標準獲得型)JPJ000595の委託により実施しています。