障害を理由とする差別は解消されているのか? 盲導犬ユーザー受け入れ拒否の実態報告
~合理的配慮を求める声が多数
2024年3月25日
公益財団法人 日本盲導犬協会
スーパーのセルフレジでタッチパネル操作のサポートを受ける盲導犬ユーザー
(2024年3月マルエツ 板橋南町店にて)
障害者差別解消法施行から8年、身体障害者補助犬法施行からは20年以上が経過していますが、法律に対する社会の理解は進んでいるのか? その実態を把握するために、公益財団法人日本盲導犬協会(井上幸彦理事長)は、盲導犬同伴での受け入れ拒否について使用者(以降ユーザー)に聞き取り調査を実施し、毎年集計、公開をしています。2023年の集計では、1年間で「受け入れ拒否にあった」と回答したユーザーが103人いて全体の44%に上りました。更に「障害を理由とする差別があった」と回答した人が81人(34%)いて、盲導犬同伴での受け入れ拒否の他にも、社会参加を阻む障壁が多数あることが明らかになりました。
今年4月1日、改正障害者差別解消法の施行により、これまで努力義務だった民間事業者による合理的配慮の提供が義務となります。これによって盲導犬ユーザーへの理解と対応がより一層求められることになります。今回の調査結果を多くの方へ伝えることにより、誰もが暮らしやすい社会へ向け、盲導犬や視覚障害に対するより一層の理解と法の周知を訴えたいと考えます。
ぜひ報道いただけますよう宜しくお願いいたします。
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盲導犬同伴での受け入れ拒否が無くならない実態について、当協会が盲導犬ユーザーを対象に行った聞き取り調査の結果を、以下の通りまとめました。
【調査概要】(2016年から毎年集計、8回目)
調査対象 :日本盲導犬協会所属のユーザー(盲導犬使用者)
対象者 :237人(回答数236人)
調査対象期間:2023年1月1日~12月31日
調査方法 :職員による電話とメールを使った聞き取り
質問内容:
Q:盲導犬の受け入れ拒否に何回あいましたか
Q:盲導犬受け入れ拒否を含む障害を理由とする差別にあいましたか
Q:障害に対する人々の理解に変化があったと思いますか
Q:あなたにとって、社会参加の障壁だと感じることは何ですか(複数回答可)
結果1
盲導犬同伴を理由にした「受け入れ拒否」については、103人(44%)が「ある」と回答しました。経年変化をみるとコロナ禍で減少した数値が前回増加し、今回はほぼ横ばいです。(グラフ1、2)
【グラフ1】受け入れ拒否にあったか
【グラフ2】受け入れ拒否にあった割合の推移
「あった」と答えた人へ拒否の回数を尋ねたところ、延べ208件発生していることが分かりました。前々回184件→前回196件→今回208件と増加しています。
208件の受け入れ拒否が起こった場所を見てみると、飲食店が114件(55%)で最多、交通機関の25件(12%)、宿泊施設が18件(9%)と続きました。(グラフ3)
<受け入れ拒否対応の事例>
208件のうち50件は、ユーザー自身の説明では理解が得られず、ユーザーの要請に応じて協会が問題解決へ向けて対応しています。対応例の中から、交通機関・宿泊施設・飲食店の事例を挙げます。
■事例1:「盲導犬とはいえ犬は乗せられない」というタクシー(神奈川県内)
駅前ロータリーにて、ユーザーがタクシーを利用しようとしたところ「犬はダメ」と乗務員が拒否。盲導犬だと説明するが、「盲導犬とはいえ、犬は乗せられない」と理解を得られなかった。やむを得ず、次に待つタクシー乗務員に尋ねたところ、問題なく乗車できた。後日、問い合わせると、タクシー会社は「乗務員の教育不足だった」と謝罪。全乗務員に盲導犬ユーザーへの対応について周知がなされた。
■事例2:「盲導犬はお断りしています」とスタッフ毎に対応が異なる宿泊施設(宮城県内)
ユーザーが予約のため電話をすると、「宿泊可能だが、ネット予約だと安くなる」と紹介され、一旦電話を切った。しかし、予約サイトの操作が難しくネット予約は断念。再度電話をしたところ、先程とは別のスタッフが出て「盲導犬はお断りしています」と断られた。協会が担当スタッフに事情を聞くと、「私の認識不足で断ってしまった」とのこと。管理者からはスタッフの教育不足について謝罪があり、再発防止を約束した。
■事例3:「犬はダメ。ビル管理事務所に聞かないとわからない」という飲食店(愛知県内)
商業施設ビルテナントのパン屋にて。店内を動き回るには狭いと知ったユーザーは、商品選びを店員に依頼。クレジット決済のため、盲導犬を同伴して店内に入ろうとすると「犬はダメ」と断られる。ユーザーが法律について説明したが、「ビル管理事務所に聞かないとわからない」という回答だった。後日、確認したところ、ビル管理事務所は「補助犬同伴は可能」と理解していたが、パン屋本社は法律を認知していなかったため、店舗にも周知されていなかった。パン屋本社は、速やかにグループ全店への研修を実施し、再発防止の対策を行った。
■事例4:「視覚障害者の対応が分からない。犬を理由に断った」という医療機関(広島県内)
皮膚科クリニックを初めて利用しようとユーザー家族が問い合わせると、「エレベーターに犬を乗せられないからダメ」と拒否。階段を使うなど、代案を伝えても「建物を管理している病院へ聞いて欲しい」と話を遮られた。同日に協会が連絡し、事情を聞くと「実は、視覚障害者の対応をしたことがなく、難しそうだから犬を理由に断ろうと思った」という話だった。盲導犬のことだけでなく、「本人のサインが必要な場合はどうするのか」など、視覚障害者への対応についても細かに説明し、利用可能となった。
考察1
①受け入れ拒否にあったユーザーの割合は、コロナ禍以降40%前後の横這いで推移していますが、今回拒否にあった103人のうち、複数回だった人が60人(58%)いました。7回拒否にあった人もいて、受け入れ拒否はユーザーの日常的な行動を左右し、社会参加への意欲を削ぐ深刻な障壁となっています。
②拒否の原因としては、「従業員の教育不足」や「受け入れの義務を知らない」など、法律の認識不足が70%以上を占めました。市民を対象に2023年7月協会が実施した『盲導犬および視覚障害に関する意識調査』でも、「身体障害者補助犬法を知らない」と回答した人が74.4%に上っていて、受け入れ拒否の解消には、法律の周知と理解が欠かせないことが鮮明になりました。
③ 業種別では、交通機関としてタクシーの乗車拒否が23件と目立ちました。盲導犬同伴だとわかるとドアを開けてもらえなかったり、予約段階で断られたりしたケースも。事業者と連携して、ドライバー一人ひとりに法律の理解を浸透させる必要があります。
2023年7月25日、東京タクシーセンターで行われたドライバー向け研修会で、
21人を対象に声かけや誘導の仕方をレクチャーしました
結果2
ここ1年間で「障害を理由とする差別があった」と回答したのは81人(34%)で、調査開始時から横ばいで推移しています。(グラフ4、5)
「差別があった」とする回答者からは、「クリニックで、通院するなら他の患者がいない時間帯にと求められた」「視覚障害を理由に配布物の冊子を貰えず、アンケート回答も不要だと言われた」などがありました。
ここ1年間の「障害に対する人々の理解や考え方の変化」を尋ねたところ、「変化はなかった」148人(62%)が最多でした(グラフ6)。回答者からは、「良い変化もあるが、受け入れ拒否もあるので変化はない」「周囲の人は良く理解していて、変化はない」「理解が無いまま変化はない」などがありました。
一方「良い方へ変化した」と答えた80人(34%)からは、「電車やバス、買い物中など周囲からの声かけが増えた」「道に迷ったときに声をかけられることが複数回あった」「視覚障害者への声かけ方法を知ってくれている」などがありました。
具体的に「社会参加の障壁だと感じること」を尋ねたところ、様々な意見があがり、社会のあらゆる場面で壁が存在していることが分かりました。以下に抜粋します。
「タッチパネルが増え、不便に感じる」
「クレジットカードの決済端末がタッチパネルだと、店員に暗証番号を伝えるしかない」
「マイナンバーカード読み取り機のタッチパネル操作ができない」
「色々な場面でアプリの利用を求められるが、視覚障害者には使いづらい」
「歩道がない。車との距離が近く、怖い思いをする」
「通勤中、歩道や点字ブロック上に駐車されている車があり歩きづらい」
「水がセルフサービスの飲食店が増えている。店員にお願いしたところ『私たちがすること
ではないので』と断られた」
「盲導犬だと説明し入店できたが、店員に『周りに迷惑をかけないように』と言われた」
「まだまだ受け入れ拒否があり、新しい所へ行くには勇気がいる。もっと気軽に出かけたい」
「賃貸住宅だと盲導犬を理由に断られる。法律を説明しても理解を得られないことも」
「有料のセミナーに参加した際、視覚障害への配慮は出来ないと言われ、内容は2/3程度
しか理解できなかった。ヘルパー同席も認められない場合がある」
「就労面で、視覚障害者、盲導犬というだけで断られる」
「障害者への対応が分からない人が多い。聞いて貰えれば答えるのに、聞かれない」
「商品説明や会計時のおつりの受け渡しを、自分ではなく同行しているヘルパーにされる」
「通りすがりに、犬が可哀想だと言われる。心理的障壁が一番ある」
考察2
社会参加の障壁について、コメントで目立ったのは「タッチパネル画面の操作ができない」とする内容で、80人(34%)の回答がありました。ICT技術の進化が加速する一方で、視覚障害者への配慮が追いつかず、情報・文化面での障壁が急激に増えていることが分かりました。
他には、「セミナー参加時に配慮が無い」などの制度的な障壁、「路上駐車があって歩きにくい」などの物理的障壁がありました。更には「『盲導犬がかわいそう』と言われ悲しい気持ちになった」「自分ではなく同行ヘルパーに話しかけられた」といった心理的障壁も含まれていました。
こうした日常に潜む障壁を取り除くためには、事業者による合理的配慮の提供が不可欠です。事業者の理解に加え「視覚障害者への対応は難しそう」と、実際に対応する人が消極的にならないよう、合理的配慮の具体的事例を示すなど、不安を軽減していく取り組みも必要であると考えます。社会の一人ひとりの気づきによって、心理的障壁の多くが解消されると考えられます。
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【社会理解へ向けた活動】
日本盲導犬協会では、誰もが自分らしく暮らせる社会の実現には、法律や合理的配慮等の周知が急務であると考え、各種セミナーにおいて合理的配慮の具体事例を示す他、YouTube上でも盲導犬や視覚障害の基礎知識を紹介する様々な動画を公開しています。この調査結果を受けて、こうした情報発信をさらに強化していきます。
<日本盲導犬協会公式YouTubeチャンネル>
動画『【入門】盲導犬ユーザーが施設に来たらどうする?~セミナー事前学習動画~』
盲導犬や視覚障害の基礎知識、法律や障害のとらえ方、サポート方法などを事業者向けにわかりやすくまとめています。
<Webサイト>
盲導犬子ども向け動画サイト『にちもうジュニア』
子供たちが盲導犬や視覚障害について楽しく学べる動画や、教育関係者の学習指導に役立つ動画を公開しています。
https://www.moudouken.net/nichimou-jr/
<その他>
※「盲導犬受け入れ拒否対応事例集」をホームページでも公開しています。https://www.moudouken.net/special/case-study/