京都府立医科大学との共同研究で60歳以上の高血圧患者3,820名のうち220名の「隠れ心房細動」を検出
オムロン ヘルスケア株式会社(本社所在地:京都府向日市、代表取締役社長:岡田 歩、以下当社)と京都府立医科大学不整脈先進医療学講座が実施した共同研究(研究代表:妹尾恵太郎、以下 本研究)で、家庭での継続的な心電図記録が、高血圧患者の心房細動の早期発見に有用であることを確認しました。
本研究は、家庭で心電図を記録できる機器を用いて60歳以上の降圧治療中の高血圧患者における未診断の心房細動(隠れ心房細動)の検出率を評価することを目的とした、日本全国規模の大規模研究です。本研究の結果、3,820名の対象者から220名の隠れ心房細動を検出し、検出率は5.8%でした。本研究では、当社の心電計付き上腕式血圧計HCR-7800Tと、健康管理スマートフォンアプリOMRON connect(以下オムロンコネクト)が使用されました。
本研究は、60歳以上かつ高血圧の既往歴があり、降圧薬を服用している4,078名を対象に、2022年の4月から2023年の7月までの期間で実施しました。研究期間中、参加者は、心電計付き上腕式血圧計で毎日、家庭で起床後と就寝前の血圧測定と心電図記録を同時に行いました。データの有効性が確認された3,820名のうち、測定期間中に「心房細動の可能性」の通知が1回以上検出された被験者は1,682名でした。「心房細動の可能性」として検出された全ての心電波を不整脈専門医が判読した結果、220名が隠れ心房細動であることが確認されました。家庭での心電図記録が、1か月経過した時点での検出率は約3.1%、2か月時点では約4.7%であり、記録期間が長くなるほど隠れ心房細動の検出率が上昇することも確認できました。さらに、高齢であるほど隠れ心房細動である可能性が高く、60~64歳に比べて、65~74歳では隠れ心房細動のリスクが1.8倍、75歳以上では2.3倍であることが示されました。また、男性は女性と比較して2.1倍、隠れ心房細動の可能性が高いことも示されました。試験開始時の家庭血圧レベルにより4グループ「非高血圧」、「グレード1」「グレード2」「グレード3」に分けて解析した結果、血圧レベル間で隠れ心房細動の検出率に有意な差は認められず、治療中の高血圧患者においては血圧のコントロール状況によらず、隠れ心房細動のリスクは同等であることが示唆されました。本研究の結果から、高血圧の人が家庭での継続的な血圧測定と合わせて心電図記録を行うことで、これまで見つかっていなかった心房細動を早期に発見できる可能性が高まることが明らかとなりました。
■ 本研究のながれ
「心房細動」は不整脈の一種で、心臓の一部である心房という部位が細かく痙攣して、心臓が血液をうまく送り出せなくなり、心房内に血の塊である血栓が生じやすくなる病気です。動悸や息切れ、疲れやすさなどの自覚症状がでて日常生活に支障をきたすだけでなく、放置すると心原性脳塞栓症を引き起こすリスクがあります。また、心房細動は約4割が無症候性であり*1、痙攣発作がたまにしか生じない発作性タイプも多く、健康診断や通常診療における限られた記録時間の心電図検査だけでは発見が難しい病気です。また、心房細動と高血圧には高い関連があるといわれており、65歳以上の一般住民を対象とした隠れ心房細動のスクリーニング調査*2では、高血圧の人は高血圧でない人に比べて約3倍、心房細動が潜んでいることがわかっています。日本国内には高血圧の人は約4,300万人いると言われており、60歳以上では約3,000万人が高血圧であると推計されます*3。家庭での継続的な血圧測定と合わせて心電図記録を行うことが、循環器イベントの発症リスクとなる心房細動をより早期に検出し、循環器イベントの発症予防につながると期待できます。
当社と京都府立医科大学は、これまでも「心電計付き上腕式血圧計による術後管理に関する共同研究」や「在宅における心不全ICTモニタリングプロジェクト」など、心疾患領域を中心として、よりよい治療の実現を目指してきました。当社は、循環器事業ビジョンとして「脳・心血管疾患の発症ゼロ(ゼロイベント)」を掲げており、家庭での継続的な血圧測定に加え、毎日の心電図記録による心房細動の早期発見にも取り組んでいます。これからも、いち早く心房細動の可能性に気づけるように、誰もが家庭で簡便に使用できるデバイスやサービスを展開するとともに、医療従事者や研究者と共に積極的に学術活動を展開することで世界中の一人ひとりの健康ですこやかな生活に貢献します。
*1 Senoo K, et al. Circ J 2012; 76: 1020-1023.
*2 Senoo K, et al. PLoS ONE 17(6) 2022; e0269506.
*3 2016年国民健康・栄養調査データと統計局ホームページ/人口推計/人口推計(2023年(令和5年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口‐ (stat.go.jp)より推計
本研究に関する論文は、科学雑誌『Thrombosis and Haemostasis』に11月24日付でアクセプトされています。
■研究概要
・実施期間:2022年4月から2023年7月
・対象者:以下の条件を満たす患者4,078名
(1) 高血圧の既往があり、降圧剤を服用している者
(2) 60歳以上の男女
(3) 本研究への参加同意が得られた者
・対象エリア:日本全国
・被験者属性:平均年齢 66.3歳±5.5歳、男性80.3%、女性19.7%、平均BMI 24.6
・実施事項:
心電計付き上腕式血圧計を用いて、自宅で3か月間、毎日、起床後・就寝前に2回ずつの血圧測定と心電図を記録。3か月後に対象者にアンケート調査を実施。
・その他:
研究期間内に実施された3か月間の継続的な血圧測定および心電図記録には、心電計付き上腕式血圧計と健康管理スマートフォンアプリ「オムロンコネクト」が用いられました。
データの有効性が確認された患者3,820名のうち、3か月間のうち、1回以上の「心房細動の可能性」の通知が表示された患者は1,682名でした。そのうち、220名が医師の心電波形の判読により心房細動と判定されました。
■使用機器
心電計付き上腕式血圧計 HCR-7800T
<主な特長>
・血圧測定と一緒に心電図を記録
・スマートフォンアプリ「オムロンコネクト」で心電図波形を解析。「心房細動の可能性」など6パターンの解析結果をお知らせ
・記録結果を保存、PDF等で結果を出力できます
※本製品は医師や医療関係者の指示により購入できる特定保守管理医療機器です。
※医療機器承認番号:30400BZX00028000
URL:https://store.healthcare.omron.co.jp/item/HCR_7800T.html
■健康管理アプリ オムロンコネクト
オムロン ヘルスケア社製の通信機能付き機器で測定したデータを転送すると、グラフやカレンダーで測定結果を確認することができます。
服薬や飲酒などの生活習慣を血圧データと一緒に管理できる「かんたん血圧日記」機能や、過去1週間分の血圧データを家族などと共有できる「血圧お知らせ定期便」、30日後の目標体重を設定して朝の体重を測ると、目標体重から算出したその日の目標となる昼の変化量を自動的に計算する「かんたん朝晩ダイエット」機能など健康管理に役立つ機能を搭載しています。
また、血圧計に加えて、心電計、体重体組成計、活動量計、体温計、パルスオキシメータなどで測定したデータを一括して管理できます。
URL:https://www.healthcare.omron.co.jp/smp_omronconnect/
■論文基礎情報
・掲載誌情報:Thrombosis and Haemostasis
・論文情報 :
論文タイトル(英・日):
Relationship between screening-detected atrial fibrillation and blood pressure levels in elderly hypertensive patients: The OMRON Heart Study
(高齢の高血圧患者における、スクリーニングで検出された心房細動と血圧値との関係)
筆頭著者:
京都府立医科大学 不整脈先進医療学講座 准教授 妹尾恵太郎
共著者:
中田 美津子c, 湯川有人a,河合 紘平b, 宗像潤 b, 牧野真大b,
戸村暢成b, 岩越 響b, 西村哲朗b, 下尾 知b, 白石 裕一a,b,
手良向 聡c, 的場 聖明a,b
a 京都府立医科大学大学院医学研究科 循環器内科学 不整脈先進医療学講座
b 京都府立医科大学大学院医学研究科 循環器内科学
c 京都府立医科大学大学院医学研究科 生物統計学
研究情報 研究課題名:
高血圧患者における心房細動の発症と、その予防にむけた危険因子管理方法の構築
代表研究者:
京都府立医科大学大学院医学研究科 循環器内科学 不整脈先進医療学講座
准教授 妹尾恵太郎
共同研究者:
オムロン ヘルスケア株式会社