みんなで考えよう!高齢者の事故 ~溝・隙間・点火に注意 死亡事故も発生しています~
今年の敬老の日は9月16日。ご高齢の方とふれあう機会も増えるかと思います。独立行政法人製品評価技術基盤機構[NITE(ナイト)、理事長:長谷川史彦、本所:東京都渋谷区西原]は、高齢者(※1)の事故を防ぐために事故が発生しやすい状況を3例紹介し、注意を呼びかけます。
今回ご紹介するのは
◆電動車いすで「側溝のある歩道を走行する」「線路の溝や砂利部(バラスト)がある踏切を走行する」な ど“溝”がある状況 (脱輪事故)。
◆ 「ベッドとフレームの間に隙間のある介護ベッド」「背もたれと肘掛けの間に隙間のあるポータブルトイレ」など介護用品に“隙間”がある状況 (身体の挟み込みの事故)。
◆ 「調理中にガスこんろの奥にあるものを取ろうとする」「火が消えていないライターをポケットやかばんに入れる」など“点火”する製品を扱う状況 (着衣着火の事故)。
の事故が発生しやすい状況3例です。
高齢者の事故を未然に防ぐため、敬老の日を契機に、利用者ご本人・ご家族・ご近所・介護をする方などまわりの方も一緒に、高齢者の生活環境に潜む危険について今一度確認して事故を未然に防ぎましょう。
■溝・・・電動車いすで気を付けるポイント
○利用する道路環境をご家族や介助者等と一緒にあらかじめ確認する。【ご本人・ご家族等】※3
○乗車前点検、定期点検を行う。【ご本人】
■隙間・・・介護ベッド・ポータブルトイレ等の挟み込みで気を付けるポイント
○使用している製品がリコール対象か、古い安全基準の製品ではないか確認する。【ご家族等】
○フレームや肘掛け・手すり等に危ない隙間がないか確認する。【ご家族等】
■点火・・・ガスこんろ・ライターで気を付けるポイント
○ガス火の青色が見えづらくなっているため、近づきすぎないように環境を整える。【ご本人・ご家族等】
○使用後に火が完全に消火したことを確認する。【ご本人】
(※1)本資料では、内閣府の高齢社会白書の定義に合わせて65歳以上を高齢者としています。
(※2)画像出典:公益財団法人テクノエイド協会「福祉用具ヒヤリハット事例集」 https://www.techno-aids.or.jp/hiyari/jirei.html
(※3)【】内は主に確認してほしい方となります。
1. 電動車いすの脱輪事故
電動車いすの事故は屋外における単独使用時に事故が発生しています。特に踏切や側溝、坂道での事故が多くなっています。
■電動車いすで走行中に側溝に転落した事故
事故発生年月 2019年 9月(福井県、80歳代・女性、死亡)
【事故の内容】
使用者が電動車いすで走行中、側溝に転落しているところを発見され、病院に搬送後、入院中に死亡した。
【事故の原因】
事故発生時の詳細な状況が不明のため事故原因の特定には至らなかったが、電動車いすに異常は認められないことから、製品に起因しない事故と推定される。
【SAFE-Lite検索キーワード】
電動車いす 側溝
■踏切内を電動車いすで走行中に脱輪し電車と接触した事故
事故発生年月 2018年6月(和歌山県、70歳代・男性、死亡)
【事故の内容】
使用者が電動車いすで走行中、踏切内で列車にはねられ死亡した。
【事故の原因】
使用者が単独で電動車いすに走行中、遮断かんの下がった踏切へ侵入した際に前輪2輪がコンクリート舗装部から砂利部へ脱輪し、電車と接触したものと推定される。
【SAFE-Lite検索キーワード】
電動車いす 踏切
電動車いすで気を付けるポイント
○利用する道路環境を介助者とともにあらかじめ確認する。【ご本人・ご家族等】
初めて道路に出るときはご家族や介助者等と一緒に、走行練習や交通ルール、安全な通行順路を確認してください。また、事前に道路環境を確認し、次のような危険な道路、危険箇所には近づかず、避けるようにしましょう。やむを得ず走行する必要がある場合は、脱輪防止のため踏切や道の端を走行しないようにしましょう。
・ 転落のおそれのある、ガードレールのない崖や蓋のない側溝
・ 踏切
・ 横断に時間のかかる広い道路や信号のない交差点
・ 転倒や衝突のおそれのある、急な坂道
○乗車前点検、定期点検を行う。【ご本人】
電動車いすを使用する際には、バッテリー残量を必ず確認してください。残量が少ないまま利用すると、途中でバッテリーが切れてしまい止まってしまうおそれがあります。また、乗車前にハンドルやアクセルレバーに緩みがないか、タイヤに亀裂がないかなどを点検することも、製品の故障による事故の防止につながります。
さらに、定期的に取扱店などで専門の点検を受けることも大切です。不具合のある状態で使用すると、けがをしたり電動車いすを損傷したりする原因になります。
充電時期の目安や点検項目の詳細、点検時期については、製品に付属の取扱説明書やメーカーのホームページをご確認ください。
2. 介護ベッド、ポータブルトイレの隙間への挟み込みの事故
介護用品には体の移動を補助するためのフレームや肘掛けがありますが、隙間があった場合に腕や首等を挟み込んでしまう事故が発生しています。また、リコール品での事故も発生しています。
■介護ベッドの手すりとマットレスの隙間に挟まった事故
事故発生年月 2022年6月(静岡県、80歳代・女性、死亡)
【事故の内容】
使用者(80歳代)が介護ベッドの手すりとマットレスにけい部が挟まれた状態で発見され、病院に搬送後、死亡が確認された。
【事故の原因】
事故発生時の詳細な状況が不明のため事故原因の特定には至らなかったが、介護ベッドに異常は認めら れないことから、製品に起因しない事故と推定される。
【SAFE-Lite検索キーワード】
介護ベッド 隙間
■ポータブルトイレへの移動中に隙間に挟まった事故
事故発生年月 2000年~2002年頃(大阪府、80歳代・男性、重傷)
【事故の内容】
ポータブルトイレを使用しようとしたところ転倒し、背もたれと肘掛けとの間の隙間に腕が挟まり、骨折した。
【事故の原因】
ポータブルトイレは、背もたれと肘掛けとの間に、腕等が挟み込まれやすい隙間があったため、転倒した拍子に当該隙間に腕を挟んだものと推定される。
再発防止措置として、製造事業者は、2002年7月に社告を、2013年10月に再社告を実施して隙間のない製品との無償交換を行っているほか、2013年11月以降、販売店・介護ショップ・介護施設や病院へのダイレクトメールの発送や介護サービス業界紙と専門誌への社告の掲載等を行っている。さらに、2015年夏から毎月各自治体の広報紙に社告の掲載等を行っている。
【SAFE-Lite検索キーワード】
ポータブルトイレ 隙間
介護ベッド・ポータブルトイレ等の挟み込みで気を付けるポイント
○使用している製品がリコール対象か、古い安全基準の製品ではないか確認する。【ご家族等】
ポータブルトイレや介護ベッド用フレームでは、肘掛けやフレームの隙間が適切ではなかったことでリコールしている製品があります。リコール対象製品かどうかはNITE SAFE-Liteで検索することができます。
また、隙間に頭や首等を挟み込む事故を防ぐため、ポータブルトイレでは2011年に「JIS T 9261福祉用具ポータブルトイレ」が制定され、介護ベッドは2009年に「JIS T 9254 在宅用電動介護用ベッド」が改正・公示されていますが、JIS制定・改正以前に製造された製品は最新の安全基準をみたしていない可能性があります。そのような製品に対しては、隙間への挟み込み防止措置を施すようにしてください。介護ベッドは、目安として下図のAの隙間が直径120mm、Bの隙間が直径60mmより広くなっている場合は、注意が必要です。
〇フレームや肘掛け・手すり等に危ない隙間がないか確認する。【ご家族等】
安全基準を満たしている場合でも、隙間からベッドの外にあるものをとろうとする、意図せず体制を崩してしまうなどして、隙間に挟まってしまうおそれがあります。使用者の身体能力や体格に応じて、あらかじめクッションや保護カバー、スペーサーで隙間をなくしておくことで、より安全に使用できます。
画像出典:医療・介護ベッド安全普及協議会 パンフレット「介護ベッドここが危ない 」 http://www.bed anzen.org/use/ use/
3. ガスこんろ、ライターの着衣着火の事故
ガスこんろを使用中に周りにある調理器具を取ろうとするなど、こんろの火に近づいたことで衣服に着火する事故が発生しています。また、ライターの使用後に完全に消火できておらず、ライターの残火が衣服に着火する事故も発生しています。
■ガスこんろの火が衣服に着火して火傷を負った事故
事故発生年月2022年10月(奈良県、60歳代・女性、重傷)
【事故の内容】
ガスこんろを使用中、衣服に着火し、火傷を負った。
【事故の原因】
使用者がガスこんろ左側に置かれていた調理器具を右手で左奥へ移動させた際に右上腕部が左こんろに接近し、左こんろのバーナーの炎が着衣に着火したものと考えられる。
なお、取扱説明書には、「使用中は衣服を炎やバーナーに近づけない。衣服に着火するおそれがある。」旨、記載している。
【SAFE-Lite検索キーワード】
ガスこんろ 衣服 着火
■ライターを使用後にポケットに入れたところ、残火が着衣に着火した事故
事故発生年月2015年6月(兵庫県、70歳代・男性、死亡)
【事故の内容】
使い切り型のライターを使用後、衣服のポケットに入れていたところ、衣服が燃えて火傷を負い、病院で死亡した。
【事故の原因】
異物の付着によって点火ボタンの滑りが悪くなり、点火ボタンが消火位置まで戻らなかったため、残火が生じて着衣に燃え移ったものと考えられる。
【SAFE-Lite検索キーワード】
ライター 残火
ガスこんろ・ライターで気を付けるポイント
○ガス火の青色が見えづらくなっているため、近づきすぎないように環境を整える。【ご本人・ご家族等】
高齢者は白内障の進行とともにガスこんろ等のガス火の青色が見えにくくなっています。また、炎は目に見えていない部分にも存在するため、目に見えている炎から離れていても衣服に着火する可能性があります。こんろの上へ腕を伸ばさないように、調理中に必要な調味料・調理器具等の配置を確認して炎に近づかない環境にするなど、炎に近づきすぎないよう注意してください。使用後は、完全に消火したかどうかもしっかり確認するようにしましょう。
○使用後に火が完全に消火したことを確認する。【ご本人】
ライターの使用後、着火レバーから指を離しても火が完全に消えず、火が残る(残火)ことがあり、その状態でポケット等に入れてしまうと衣服等に着火する可能性があります。着火レバーとノズルネジの間にごみ・小石等の異物が挟まると残火の原因となるので取り除いてください。ふたのないタイプは特に異物が付着しやすいので、異物を挟み込んでいないか、残火がないか注意してください。
「NITE SAFE-Lite(ナイト セーフ・ライト」のご紹介
NITEはホームページで製品事故に特化したウェブ検索ツール「SAFE-Lite(セーフ・ライト)」のサービスを行っています。製品の利用者が慣れ親しんだ名称で製品名を入力すると、その名称(製品)に関連する事故の情報やリコール情報を検索することができます。
また、事故事例の【SAFE-Lite検索キーワード例】で例示されたキーワードで検索することで、類似した事故が表示されます。
https://www.nite.go.jp/jiko/jikojohou/safe-lite.html
今回の注意喚起動画はこちら
>> 電動車いす「11.側溝で脱輪」
独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE) 製品安全センターの概要
NITE 製品安全センターには、消費生活用製品安全法などの法律に基づき、一般消費者が購入する消費生活用製品(家庭用電気製品やガス・石油機器、身の回り品など)を対象に毎年1千件以上の事故情報が寄せられます。製品安全センターでは、こうして収集した事故情報を公平かつ中立な立場で調査・分析して原因究明やリスク評価を行っています。原因究明調査の結果を公表することで、製品事故の再発・未然防止に役立てています。