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投稿者:

ZYAO22編集部

がん患者の悪液質の診断基準は有病率や全生存期間に影響する?

診断基準はがん悪液質の研究結果の解釈に重要

がん患者の悪液質の診断基準は有病率や全生存期間に影響する? 診断基準はがん悪液質の研究結果の解釈に重要

 

詳細は 早稲田大学Webサイト をご覧ください。

 

【発表のポイント】

◆ がん患者の悪液質の有病率は33.0%でした。しかし、悪液質の診断基準により有病率は異なる(13.9~56.5%)ことが示されました。

◆ 悪液質の有病率と全生存期間の量反応関係は、有病率が40~50%付近で頭打ちになるL字型の曲線を描くことが示されました。

◆ 診断基準の違いによる影響を整理することで、悪液質の可能性がある者の選別や治療介入に繋げるための基準の設定、治療法の開発・結果の統合などに役立てられることが期待される。

 早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉 大輝(わたなべ だいき)助教は、信州大学大学院総合医理工学研究科医学系専攻医学分野 博士課程3年で信州大学医学部附属病院の髙岡 友哉(たかおか ともや)管理栄養士と北海道文教大学の八重樫 昭徳(やえがし あきのり)講師と共同して、がん患者における悪液質の診断基準の違いとその有病率および全生存期間(生きている期間)との関連をシテマティックレビューとメタ解析の手法で包括的に検討し、悪液質の診断基準の違いが有病率や全生存期間に影響することを世界で初めて報告しました。

 本研究成果は、『Advances in Nutrition』(論文名:Prevalence of and survival with cachexia among patients with cancer: A systematic review and meta-analysis)にて、2024年8月30日(金)にVersion of Recordがオンラインで掲載されました。その後、2024年9月に雑誌に掲載される予定です。

 

■研究の波及効果や社会的影響

 がん患者は世界中で増えており、今後ますます悪液質と診断されるがん患者も増える可能性が高く、その治療戦略が重要になると考えられます。我々の調査結果により、がん患者において悪液質の有無だけでなく、悪液質の診断基準の違いも全生存期間に影響することがわかりました。このことはがん患者の悪液質の治療法の開発や結果の統合(治療ガイドラインの作成など)をする上で大きな障壁になると思われます。診断基準の違いによる影響を整理することで、大規模な集団から悪液質の可能性がある者を選別するための基準や死亡リスクが高い悪液質の者を特定して治療介入に繋げるための基準など、使い分けができるようになるでしょう。

 

■今後の課題

 本研究ではこれまでに報告されている世界中の研究成果を包括的にまとめ、悪液質の診断基準を考慮することが重要であることを示しました。しかし、同一集団で診断基準の違いによる有病率や全生存期間の影響を検討した研究は少ないため、同一集団を対象にした診断基準の違いの影響をさらに検討する必要があります。さらに、診断基準の違いが悪液質の治療効果に影響するかも不明であるため、悪液質の診断基準と治療介入への影響を評価する必要があります。近年アジア人を対象にした悪液質の診断基準が発表されました。今後は日本人の集団を含め、これまで使われてきた診断基準と、新たに開発されたアジア人向けの診断基準における有病率や全生存期間などへの影響を検討する必要があります。

 

■研究者のコメント

○渡邉大輝:個々人の健康管理から医療政策までヘルスケアに関する重要な決断において、文献から示される科学的根拠の果たす役割は大きい。過去の科学論文は新たな研究を行うための背景を知るための情報としてだけではなく、これらの文献から得られた結果を統合・活用したことで、これまでにない新たな知見を得ることができた。もし、本研究と同様の結果を得るために大規模な観察研究を実施した場合、多額の費用と時間が必要となる。本研究はアカデミアの研究者と臨床の実務者が協力し、日常の臨床業務から生まれた疑問や課題を解明するためにおこなった。今後も臨床の実務者と協力して、実臨床やガイドライン作成時に活用可能な科学的根拠を示していきたい。

○髙岡友哉:基準は研究や臨床現場で得られた知見を統合し、役立てるために重要なものである。本研究はこれまでの研究を系統的にまとめることで、悪液質の診断基準が多数存在し、その診断基準により有病率や全生存期間との関連が異なる可能性を示した。臨床現場での運用上、診断基準の使いやすさは基準を選択する上で重要な要因である。しかし、使いやすさだけでなく、重要度も大切にすべきであり、使いにくいが疾病管理において重要な診断基準をどのように運用するか?を検討することが臨床現場に必要である。本研究に有益なご意見をいただいた座光寺知恵子氏、がん患者の悪液質の研究を報告した世界中の研究者、そしてその研究に協力した世界中の参加者に感謝する。

○八重樫昭徳:本研究は栄養疫学の勉強会で知り合った1名の管理栄養士である実務者と2名のアカデミアの研究者が協力して実施した。3名は北海道、埼玉県、長野県と離れた場所を拠点として活動しているので、Web会議を中心にして打ち合わせを行って研究を進めた。この研究のように、離れた場所で活動している同じ志を持つ者により、現場の疑問を解決するための研究を論文としてまとめたことは、大変意義があると考えている。今後も同様の研究を継続しつつ、今回の経験を管理栄養士養成課程の学生に伝え、研究者と協力して現場の疑問を解決できる管理栄養士を育成していきたい。

 

■論文情報

雑誌名:Advances in Nutrition

論文名:Prevalence of and survival with cachexia among patients with cancer: A systematic review and meta-analysis

執筆者名(所属機関名):髙岡 友哉(信州大学医学部附属病院・信州大学 大学院総合医理工学研究科 医学系専攻 医学分野 博士課程)、八重樫 昭徳(北海道文教大学)、
渡邉 大輝(早稲田大学)

掲載日時:2024年8月30日(金)

掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2161831324001169?via%3Dihub

DOI:https://doi.org/10.1016/j.advnut.2024.100282