鹿児島市の下水処理場で下水汚泥ガス化に関するフィールド試験実施を決定
~ 下水処理における消費電力削減とグリーン化に貢献 ~
日立造船株式会社と産総研グループ(国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下 産総研)および株式会社AIST Solutions)は、このほど、共同研究中の下水汚泥ガス化技術に関し、鹿児島市南部処理場においてフィールド試験を実施することを決定しました。
全国の下水処理場では、水処理工程における曝気装置※1などで多くの電力が消費されています。一方で、下水処理場では、約230万トン(乾燥基準)の下水汚泥が発生していますが、エネルギーとしての利用率は約26%に留まっています。また、汚泥が微生物の働きによって分解される「消化」工程で発生する消化ガス利用は広く普及しておりますが、消化汚泥※2の処理などが課題の1つとなっています。
日立造船と産総研は、2020年3月から共同で、消化処理を経ることなく下水汚泥を直接ガス化して水素などを主成分とする燃料ガスに転換する新型・ガス化改質システムの構築を目指し、「下水汚泥からの水素製造プロセスに関する研究」を行ってきました。
これまでも、下水汚泥の直接ガス化によるエネルギー回収技術の開発が行われてきましたが、副生するタールが配管に付着して閉塞することによるタール排出抑制が課題となっていました。本技術では、新型・ガス化改質システムとして、タール改質機能を有する安価な天然鉱石を媒体として使用する独自の循環流動床装置を開発し、連続した安定運転を実現するなど、2023年3月までに要素技術を確立しました。
本技術の実用化に向けた新たなステップとして、2024年10月からは、鹿児島市から脱水汚泥試料および下水処理場フィールドの提供を受け、2トン(湿潤基準)/日規模のパイロットプラントを同市南部処理場に設置して2026年3月までフィールド試験を実施します。
試験では、得られた燃料ガスの電力利用を主な目的として、ガスエンジンによる下水汚泥ガス化発電プロセスに関するトータルシステムの検証を実施します。本システムを実用化できれば、消化汚泥の処理が不要になるとともに、汚泥由来の燃料ガスを発電に利用し、得られる電力を下水処理場に自給することで下水処理のグリーン化が可能になります。また、将来的な水素社会の到来や、素材としてのケミカルリサイクル利用を見据えて、鹿児島市周辺における地域ニーズや時代にマッチした燃料ガス利用方法の調査など、サーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みを行います。
「下水汚泥のエネルギー化(創エネ)」については、国土交通省が下水道事業の目指す姿として掲げる「グリーンイノベーション下水道」においても「焼却の高度化」などと共に取り組み施策の1つとして掲げられています。日立造船は、焼却の高度化においてごみ焼却で豊富な実績を有するストーカ式での下水汚泥焼却の技術開発に取り組んでおりますが、あわせて本実証におきましても、下水汚泥のエネルギー化に積極的に貢献していきます。
※1:水中に酸素を送り込むこと。下水処理においては、微生物の働きによって汚泥を分解しており、微生物の活動を活発化させるため曝気工程を設け、常に酸素を送り込んでいる。
※2:消化工程の後に残る汚泥。一般的に、消化処理前の汚泥量に対して約60%の消化汚泥が発生する。
なお、本件の概要は次のとおりです。
1.実施場所:鹿児島市南部処理場
2.実施期間:2024年10月~2026年3月(予定)
3.規 模:約2トン/日(湿潤基準)
(終)
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20240719/pr20240719.html