EY調査、世界のCEOは2024年の収益成長率、収益性、ディールメイキングの増加に期待
― 企業のビジネス変革が加速
- 厳しい世界経済環境にも関わらず、※1グローバル全体の3分の2近く(※2日本 9割近く)のCEOが収益成長率と収益性の増加を見込んでいる
- 58%(日本40%)のCEOが 変革を加速させる予定であり、その割合は2023年7月の3倍近く(日本2倍)にまで増加。また、2024年は大規模ディ―ルの場に戻る企業が増加すると予想される
- 2024年は世界人口の半分以上が選挙に関わる「選挙イヤー」であり、 政治的不透明感や人工知能(AI)が生み出すフェイク情報などが懸念材料に
EYは、最新のM&Aに関する調査レポート「EY CEO Outlook Pulse survey」(以下、「本調査」)を発表しました。世界21カ国1,200人のCEOを対象に四半期ごとに行われる本調査は、今回は主に、企業の将来の見通し、課題、ビジネスチャンスなどに関する分析結果をまとめています。
本調査でCEOは、2024年の自社の見通しについて、世界経済への逆風が強まる中でも収益成長率と収益性を向上させることができると予想していることが明らかになりました。CEOの4分の3(日本76%)が世界経済は低成長または停滞が続くと予想していますが、64%が収益成長率の増加を、63%が収益性の増加を見込んでおり、低成長の環境下でも大半が自社の業績見通しに強気な見方を示しています。日本のCEOも9割強(93%)が低成長・停滞と予想している一方で、86%が収益成長率の増加を、88%が収益性の増加を見込み、世界のCEO以上に強気な見方を示しています。
根強いインフレ圧力による「高金利長期化」に備えているCEOは78%(日本97%)を占め、「事業コストが増加すると思う」と回答したCEOは半数以上(57%)、日本では89%と9割近くに上りました。日本は、他国に比べてインフレ率が低かったことに加え、日本銀行のイールドカーブ・コントロール(YCC)および、量的・質的緩和(QQE)政策の枠組みの行方などが日本のCEOにとって大きな懸念になっていると考えられます。
EY Japan ストラテジー・アンド・トランザクション リーダー 梅村秀和(うめむら ひでかず)は以下の通り述べています。
「CEOは、世界経済の停滞が続くと予想していますが、そうした環境に臆することなく収益性を追求しています。そして、新たなレジリエンス(回復力)と自信を原動力に、成長に向けて、効率性向上やビジネス変革の機会を模索しています。M&A市場は今後回復基調に向かうことが予想され、多くのCEOがビジネス変革プランの再考や賢明な投資先の模索、将来的な提携に向けた基盤の構築などに真剣に取り組んでいます。日本のCEOが今後についてグローバル全体と比べても強気な姿勢を見せた理由としては、円安によって恩恵を受けた企業も一定数あったことに加え、M&Aや株式市場が、過去数四半期にわたって非常に好調だったこと、また、高い海外投資、消費者信頼感、日本への人材流入などが理由と考えられます」
2024年のディール市場は急速に活発化
CEOはディール市場の活況が戻るという見方を示しており、回答者のうち10人に8人(79%)が100億米ドル以上の大型M&Aが増加すると予測しています。また、36%が、今後12カ月の間にM&A取引を積極的に進める予定で、さらに29%がダイベストメント(事業売却)を検討しています。M&A活動の観点から見ると、依然として米国が最も望ましいM&A投資候補国となっており、その後に日本、英国、中国、インドが続きます。最も高い買収意欲を示しているのは製造業で、僅差でバンキング・キャピタルマーケット、保険、消費財、モビリティが続き、上位5位を占めています。
「日本は、M&A投資候補国上位であるとともに、投資から資金を引き揚げるダイベストメントにおいても上位3位に入っています。これは日本が変わらず堅調で高い技術力をもった産業界および購買力の高い消費者基盤を有して世界有数の経済大国と認められていると同時に、日本が金利を最低水準で維持してきたことが、輸出国にとって競争力と収益を高め、日本への投資や事業拡大を目指す投資家にとってプラスに働いたのではないでしょうか」と梅村は述べています。
今回の四半期調査では、20以上の国のプライベートエクイティ(PE)企業の経営幹部300人超からも見解を収集し、投資やポートフォリオ管理に関する展望を探りました。CEOに対する意識調査の結果と同様に、PE企業の大半(71%)が大規模ディールの活発化を見込んでいます。また、70%が、2024年には企業のダイベストメントやカーブアウトが増加するだろうと回答しました。こうした調査結果は、前年に比べ、ディール市場の活気が増すことを示唆しています。
効率性向上を主とする変革の加速
CEOの企業成長に対する自信の強まりは、加速する戦略的変革に裏打ちされています。本調査によると、ビジネス変革アジェンダの加速を検討しているCEOは58%に上り、2023年7月の21%からほぼ3倍に相当する著しい増加です。ビジネス変革においてCEOが特に重点を置いているのは、効率性向上とコスト管理の改善に向けた戦略の展開です。実際、CEOの42%、PE企業の45%が、運転資本の効果的な管理を優先事項に据えています。また、CEOは、効率性の原動力としてテクノロジーを受け入れており、CEOの41%が効率性や事業業績の改善を目指して人工知能(AI)の採用を検討しています。そうした中、興味深いことに、CEOの4人に3人(76%)が、効率性向上の手段としてAIを受け入れつつも、そのテクノロジーは収益成長にはほとんど影響を与えないだろうと回答しました。
梅村は、次のように述べています。「2023年が組織にとってポリクライシス(複合危機)への対応に振り回された過渡期であるとしたら、2024年は、それをうまく乗り切るための行動を実践する年と言えます。ビジネスの運営コストがパンデミック前の水準に戻る可能性は低いとの認識から、ビジネス変革に対するCEOの考え方に変化が表れており、CEOは、成長に対して前向きな見方を維持しつつも、効率性とコスト管理の改善に主眼を置いた現実的なアプローチでビジネス変革を推し進めています」
選挙イヤーの2024年は特に地政学的リスクが増大
2024年は世界人口の半分以上が選挙に関わる年となるため、CEOは、今後12カ月間における地政学的リスクとそのリスクがビジネスに与える潜在的影響に敏感になっています。調査対象となったCEOの4分の3以上(78%)、日本では9割以上(93%)が、地政学上の不確実性やビジネス課題をもたらすポピュリスト運動の可能性を懸念しています。また、76%、日本の94%のCEOが、2024年の主要な選挙でAIが政治広告に悪用される可能性があると懸念しています。
多くのCEOが、地政学的混乱の影響を反映した意思決定を行うことができると回答していますが、地政学的リスクの管理プロセスに関しては、回答者のほぼ半数(48%)が、その定義づけと有効性において改善の余地があると感じています。実際、98%のCEOとPE企業が投資プランの見直しの必要性に迫られていると回答しています。その内容は特定の事業からの撤退(CEO32%、PE企業38%)、または計画投資の延期(CEO42%、PE企業32%)などになります。
梅村は、次のように述べています。「政治の世界が企業の世界に与える影響はかつてないほどに強いものとなっています。そうした中、今年は政治活動にAIが台頭し始め、悪用の恐れも懸念されるなど、新たなリスクが表出しています。CEOは、こうした状況に鑑み、自社の戦略プランを策定する上で地政学的混乱を考慮する必要性を十分に認識しています。一方、リスク管理プロセスの有効性を懸念するCEOは依然多数を占めています。地政学的に不安定な環境を乗り切るためには、今こそ戦略の再評価と精緻化に取り組む必要があるでしょう」
*¹ グローバル企業のCEO=日本企業を含むグローバルでビジネスを展開している企業の回答者。本調査では全回答者がこれに該当する。
*² 日本企業のCEO=今回の調査で回答のあった企業のうち、日本に本社を置くグローバルで展開している企業。
本調査の詳細は、以下をご覧ください。
不確実性に直面する今、CEOはビジネストランスフォーメーションを強化すべきか
※本ニュースリリースは、2024 年1月30日(現地時間)にEYが発表したニュースリリースを翻訳し、日本の見解を加えたものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先されます。
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[2024年1月期 EY CEO Outlook Pulse 調査 について]
2023年12月および2024年1月、FT Longitude社は、EYの委託を受けて、世界21カ国1,200名の大手企業CEOを対象に調査を実施しました。同社は、フィナンシャル・タイムズ・グループの傘下で専門調査・コンテンツマーケティングを担う企業です。オンライン上で匿名で実施される本調査は、世界の主要企業に影響を与える主なトレンドや動向、また、今後の成長と長期的価値の創造に対するビジネスリーダーの期待などについて有益な見解を提供することを目的としています。 回答者の所属する国の内訳は次の通りです:ブラジル、カナダ、メキシコ、米国、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ、フランス、ドイツ、イタリア、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、英国、オーストラリア、中国、インド、日本、シンガポールおよび韓国。また、回答者は次の5つのセクターのいずれかに所属しています:消費財と健康事業、金融、工業とエネルギー、インフラ、TMT(テクノロジー、メディア・エンターテインメント、テレコム)。調査対象企業の年間の全世界売上別構成は次の通りです:5億米ドル未満(19%)、5億~9億9,990万米ドル(19%)、10億~49億米ドル(30%)、50億米ドル以上(32%)。
さらに、FT Longitude社は、世界21カ国300名のプライベートエクイティ企業の経営幹部を対象にした調査も行いました。回答者の所属する国の内訳は次の通りです:ブラジル、カナダ、メキシコ、米国、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ、フランス、ドイツ、イタリア、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、英国、オーストラリア、中国、インド、日本、シンガポールおよび韓国。調査対象企業の運用資産残高の構成は次の通りです:10億米ドル未満(15%)、10億~99億9,000万米ドル(40%)、100億~499億9,000万米ドル(25%)、500億米ドル以上(20%)。
CEO ImperativeシリーズではCEOが自社の未来を再定義するために役立つ、重要な答えとアクションを提案しています。本シリーズで紹介している知見についてはey.com/ja_jp/ceoをご覧ください。